受験生見送る母にVサイン     久保田 操

受験生見送る母にVサイン     久保田 操 『季のことば』  「受験」(入学試験)は「卒業」「入学」と並んで若者にとっての春の季語の三幅対である。当人は言うまでも無いが、それを抱えた両親兄弟にとっても気もそぞろになるビックイベント。オジイチャン、オバアチャンも可愛い孫の成功を祈るや切である。この句は入学試験当日朝の情景を見事に切り取っている。しかもまさに現代っ子の様子を活写した。  「頑張ってね」とか「しっかりね」などという言葉を言いすぎると、子供をますます緊張させてしまうからと、母親は言葉少なに送り出す。子供は十歩ほど行ったところで振り向き、笑みを拵えてVサインをしてみせる。なんの屈託も無く、あっけらかんとしているように見えるが、その実、子供の方もかなり緊張しているのだ。そんな母子の微妙な感じがうかがえる。  少子化時代とあって、私立中高校が潰れたり、「大学全入時代」などと言われるようになったが、そうなればなったで学校、大学ごとの格付けがやかましくなる。人気上位の学校に入りたい、入れたいと願うのが人情だから、「受験」のはらはらはいつまでたっても無くならない。(水)

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