春の浜少し動いた砂模様 植村 博明
春の浜少し動いた砂模様 植村 博明
『この一句』
最初に見た時、この句は「春の浜」でなくとも、夏、秋、冬どれをつけても成立するのではないかと思った。
しかし、それは評者の早とちり。何回か読み返しているうちに、やはりこれは「春の浜」がいいなと思うようになった。四季それぞれ海辺の砂は風によって動き、さまざまな模様を描く。だから何も春には限らないと思ったのだが、日々風向きが変わる春こそ、「砂模様」の百面相を眺めるにふさわしい季節に違いない。
春風と聞けば「そよそよ」と形容される優しい風を真っ先に思い浮かべるが、「春一番」という南風や貝殻を吹き寄せる西風など、小型台風並みの強風が吹くこともしばしばある。強風の吹き荒れた翌朝は砂山が移動していることもある。
この句の風はさてどの程度の風だったのか。砂模様が「少し動いた」ということからすると、さほど強いものではなかったのだろう。のんびり散歩できるくらいのような感じがする。とにかく観察が行き届いていることと、素晴らしい言語表現に感服した。(水)