鳥帰るスワンボートが池を占め     澤井 二堂

鳥帰るスワンボートが池を占め     澤井 二堂 『おかめはちもく』  あのスワンボートなる乗物の、なんとも不格好だがのほほんとした姿形がいい。春から晩秋の行楽地の湖沼の顔馴染みである。大人も子供も湖のある観光地にやって来ると、なんとなくこれに乗るものだというような気分で乗り、水上の一時をのんびりと過ごす。これぞ命の洗濯という風情である。  作者によると、これは上野不忍池だそうである。あそこにもスワンボートがあり、冬の間は囲いの中に係留されている。蓮が枯れて広くなった池は北方から渡って来た鴨の天国。日がな一日ガアガア、ギャアギャア実に騒々しい。  三月半ばから、鴨たちは次々に北へ向かって飛び立って行く。大体は冬の不忍池で伴侶を見つけており、北国に愛の巣を設けるべく連れ立って羽ばたく。こうして、空っぽになった不忍池のこれからの主役がスワンボートである。  とても面白く、感じの良い句だが、「鳥帰る」と切ってしまわずに、「鳥帰り」と一句一章につなげてしまう方がいいのではないかと思う。ダジャレ好きな作者が「取り替える」と言いたかったのは分からないでもないのだが。(水)

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