忘れ雪汁粉の中に餅二つ 石黒 賢一
忘れ雪汁粉の中に餅二つ 石黒 賢一
『合評会から』(三四郎句会)
正義 白い雪と餅、それがお汁粉の中に。春の混然とした一句だ。
崇 「忘れ雪」で切れる二句一章、つまり取合せの句ですね。皆さん、どう捉えるか。
而云 変な句で、面白い句ですね。お汁粉に餅が二つは、雪の残っている春先の庭の隅か。二句一章の句と指摘されてみると、なるほど、取合せの妙味も感じます。
賢一(作者) 春の雪の日。熱い汁粉がいいなぁ、という句ですが。
* * *
「忘れ雪」は雪の果、名残の雪、雪の別れ、終雪などと同じく、一年の最後の雪を意味している。涅槃会(陰暦二月十五日)に合わせて、涅槃雪、雪涅槃ともいう。この句は「忘れ雪」を上五に、「汁粉と餅」を中七、下五に置く。その前後を意識しながら一句を読むと、柔らかな、べたべたするような白と黒の混沌が浮かんでくる。
庭に雪が残っている寒い日。作者はお汁粉を作り、餅を二つ入れてみた。どろりとした小豆色の汁に白い塊が二つ。ただそのことだけを詠んだのかも知れないが、崇氏が指摘するように、これは取合せの句になった。(恂)