引っ越す日庭の水仙咲き始む 竹居 照芳
引っ越す日庭の水仙咲き始む 竹居 照芳
『おかめはちもく』
新年度を控えて転勤のシーズンである。内示を受けた人はあたふたと引っ越しの準備をし、明日は馴染んでいた我が家から去っていかなければならない。春先に芽を出した水仙がどんどん葉を伸ばし、つぼみがそろそろ開きそうだ。さて、その翌日、家族が身支度をして、いよいよ、という時に・・・
ふと庭を眺めたら、水仙が開き始めていた。「咲いたよ、咲いたよ」と子供や奥さんが喜びの声を挙げている。この家に住んで五年、毎年、この時期になると水仙は律義に花を開いてくれた。これが見納めになりそうだが、家族の引っ越しに間に合うように一生懸命咲いてくれたようでもある。
じーんとくるような場面を詠んでいるが、気になる点がある。水仙が「庭」に咲く、と言わなくてもよさそうだ。「引っ越しの日に水仙の咲き始む」で状況は十分に理解できるのではないか。俳句は省略の文芸だという。省略してもきちんと解釈できるなら、その方がいいことになる。(恂)