嫁ぐ日を控えて朝の若布汁   向井 ゆり

嫁ぐ日を控えて朝の若布汁   向井 ゆり 『この一句』  この句は二つの場合が考えられよう。結婚式の近づいた日、娘が「朝のお味噌汁、若布にしてね」と母上にお願いする。母の若布汁を味わっておきたかったのだ。もう一つは母が娘の作る若布汁の味を確かめておこうと考えたケース。ともに我が家の味を新婚家庭へ、の思いからである。  私にとって、どちらの場合も好ましい。料理など家事のもろもろは、女系とするのがいい、と考えているからだ。旧家に嫁入りして、という場合もあるだろうが、普通の家庭なら家事は奥さんに任せる方が絶対にうまくいく。なぜか、と問う必要はない。男性に任せたらどうなるか、考えれば明らかだ。  「若布」は句会の兼題であった。最も身近な食材だけに、詠まれた状況は実に多彩だった。茹で挙げた際の翡翠色、酢若布や若布サラダの味、病棟食の汁椀の底に、というのもあった。そしてこの句。娘の結婚や女系の家事までへと、海底の若布が立ち上がるように、考えが膨らんで行くのであった。(恂)

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