春光やシャンパン注ぐ神楽坂 流合 研士郎
春光やシャンパン注ぐ神楽坂 流合 研士郎
『おかめはちもく』
神楽坂には不思議な雰囲気がある。JR飯田橋駅を出て外堀通りから牛込に上る坂道で、江戸時代から大いに賑わった。山手でありながら下町的な庶民的な味わいのある町である。外堀通りを背に坂の右側一帯が大正から昭和にかけて全盛を誇った神楽坂花街の跡で、入り組んだ路地がそこはかとなく色気を残している。
今では神楽坂も小さなマンションや住宅のひしめき合う町になってしまったが、その中に洒落たレストランや小料理屋がごく自然にしっぽりと溶け込んでいる。そうした一軒で作者は親しい人とシャンパンを酌み交わしていると見える。思わず飛び出しそうになる「このヤロー」などという下品な言葉をぐっと抑えて、冷静にこの句を吟味する。
神楽坂とシャンパンとの取り合わせはなかなか面白い。昔から日仏学院はじめ神楽坂とフランスの相性は良い。洒落た感じがする。しかし、「注ぐ」が散文的で良くない。「神楽坂はシャンパンもいいですよ」と言うのであれば、「春光やシャンパン似合ふ神楽坂」と言い切った方がすっきりする。(水)