春光や挨拶交はす犬どうし 高橋 ヺブラダ
春光や挨拶交はす犬どうし 高橋 ヲブラダ
『季のことば』
「春光」という季語は字面通り春の日差しを言うのだが、やわらかな春の太陽に照らされて浮かび上がる春景色をも表している。さらにはそれにつれて漂う、のんびりした気分をも含むという説もある。この「気分」は厳密には春光という季語に備わるものとまでは言えないのだが、春光を据えて句を詠んだ時に自ずからそういう感じが湧き出して来るのである。そこからすると、この句はまさに春光という季語の働きを十二分に生かしたと言えそうだ。
「春光」と置いて、冬とは違った周囲の景色をうたう句が多い。それも悪くはないのだが、どうしてもどこかで見たような句になりがちである。しかしこの句は犬同士が鼻をくっつけ合ってふんふん嗅いだりしているところを詠んで、春光の雰囲気を醸し出した。
「『犬どうし』という言葉を用いたところが新鮮だ」(庄一郎)、「犬を連れた人間同士が話をしている情景が春めいてきた感じで、いいですね」(昌魚)、「人間も喜んでいる景なんですね」(綾子)と、合評会では飼い主を引っくるめての春を喜ぶ風情の句として称揚する声が多かった。ユニークな春光句。(水)