春光や舟道残す片瀬浜 鈴木 好夫
春光や舟道残す片瀬浜 鈴木 好夫
『この一句』
川の中や遠浅の海岸には、舟を通すために水路を穿った所がある。これを「舟道(ふなみち)」という。海岸や川岸にこしらえた船着場で客を乗せた通船や荷を積んだ艀は、この舟道を通って、沖がかりした本船に客や荷を運ぶのだ。
遠い昔、鎌倉幕府が置かれた時代には材木座・由比ヶ浜からこの江の島近くの片瀬海岸まで、各所に波打ち際から沖合まで舟道が掘られ、時にはもっと大規模に浚渫した船だまりが築かれた。そこには近在の小舟だけではなく、遠くは中国大陸や朝鮮半島からの船まで迎え入れていた。
三代将軍源実朝は宋との交易を盛んにするために此処で大船を建造しようと計ったが、遠浅で大規模な舟道をつくることが出来ずに断念したという話が伝わっている。この句の片瀬浜の舟道はそうした昔のものの断片なのだろうか。あるいはヨットやモーターボートのレジャー用船着場として、現代になって作られた舟道かも知れない。それはとにかく、この句には春の気分がよく表れていると同時に、遥かな歴史ロマンにまで思いが広がってゆく、悠々然とした感じがある。(水)