水洟を垂らす子供を見ずなりぬ     井上 庄一郎

水洟を垂らす子供を見ずなりぬ     井上 庄一郎 『季のことば』  「水洟」と書いて「みずばな」と読むのだが、若い人には「何それ」なんて言われかねない。「水っぱな」とか「鼻水」とも言うが、江戸時代から冬の季語に立てられ、盛んに詠まれてきた句材である。今では冬の風邪引きの水洟よりも春の花粉症による水洟の方がぴんと来る様になっているのかも知れない。  昔は暖房も不十分で、真冬は家の中でさえ寒さに震えた。衣服も防寒にはさして効果を発揮しそうにないものが多く、「綿入れ」の着物がせいぜいだった。洋服もウールの上等品を子供に着せてやれる家庭は少なかった。そのせいか、水っぱなを垂らしている子供がとても目立った。「子供は風の子」などと言われ、寒風吹きすさぶ戸外で冷え込む夕方まで遊んでいた。鼻水などかんでいる暇は無い。無造作に袖口で拭いた。だから、袖口をてらてら黒光りさせている子が多かった。  今やそんな子を見る機会は絶無である。子どもたちは暖房の効いた屋内で勉強に追われているか、ゲームに興じている。鼻水など出る合間さえ無くなっているのだ。(水)

続きを読む