鎌倉や五山春光あふれたり 大倉悌志郎
鎌倉や五山春光あふれたり 大倉悌志郎
『この一句』
鎌倉の五山と言えば、何と言っても円覚寺と建長寺。北鎌倉の駅で降りてまず円覚寺に詣で、そこから建長寺までゆっくり歩いて三十分ほど。近くに浄智寺があり、これも五山の一つだったような気がする。後の二つは・・・。調べて寿福寺と浄妙寺だと分かるが、場所まで確認することもない。
鎌倉は起伏の多い地だから、どこに立っても五山を一望できるとは思えない。作者は五寺の一つ一つを回ったのだろうか。いや、そんな詮索は無用というものだ。「五山春光あふれたり」。この大らかな表現によって、寺社だけでなく、歴史に彩られた鎌倉という土地全体を表したのである。
この句、晴れた春の一日、ぶらりと鎌倉へ出かけた、という雰囲気だ。東京に近いから九時ごろ家を出てまだ午前中だ。寺社だけでなく、山も海もある。どこへ行こうか、歩きか、バスへ乗るか。駅前で「さて」と遠くを見回す。こうして「五山春光」の句が生れた、と私は推測する。(恂)