玉子酒まぜる男の背中かな     鈴木 好夫

玉子酒まぜる男の背中かな      鈴木 好夫 『季のことば』  玉子酒とはまた古風で乙な季語を持ち出したものだ。十分暖房を効かしているはずなのに、どうも寒気がする。もしかしたら風邪の引きかけかも知れない。こんな時には玉子酒に限ると、口実半分で作り始める。  日本酒を小鍋に入れてとろ火にかけ、砂糖を少し入れ、溶き卵を注ぎ入れてゆっくり掻き混ぜる。熱々の燗がついたら志野か信楽の厚手の湯呑に入れて両手で温もりを楽しみながらすする。鼻風邪くらいなら雲散霧消する。  しかし、玉子酒を掻き混ぜている男というものはあまり景気の良いものではない。少なからず貧乏たらしい中年男という感じである。この句は「背中かな」と詠んでいるのだから、字面を素直に受け止めれば、玉子酒を掻き混ぜている男をやれやれといった気分で眺めている作者、という構図である。しかし、実際は掻き混ぜているのは作者自身であり、それを作者の分身が虚空から見つめているのだろう。  そこに得も言われぬユーモアが漂う。そして、その作者がお医者さんと分かって、吹き出すのを我慢できなくなった。(水)

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