秋冷を来て卓上の山の幸      大下 綾子

秋冷を来て卓上の山の幸      大下 綾子 『季のことば』  「秋冷」はほとんどの歳時記で「冷やか」の傍題とされている。元来は「秋冷の候」と、季節の挨拶に用いられ、やがて俳句の季語に加えられたようだ。しかし「秋冷」は同じ傍題の「ひいやり」「冷え冷え」「冷たし」はもちろん、主季語の「冷やか」以上に俳句的な語と言えるだろう。  「秋冷を来て」とは巧みな言い回しである。この表現が可能なのは漢語(漢字の熟語)であるからで、「冷やかを来て」「ひいやりを来て、」では格好がつかない。同じような使い方の「炎天を来て」「豪雪を来て」などを見た記憶があるが、掲句は澄明な空気を感じさせ、いかにも秋である。  一読、季節の雰囲気を大掴みにした句と思えたが、「卓上の山の幸」によって具体的な状況が見えてくる。鉄道の駅で降り、けっこう長い道を歩き、山荘を訪れたのではないだろうか。凍えかけた手に息を吹きかけながら部屋に入ると、色とりどりの山の幸が大皿に盛られていたのである。(恂)

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