風一閃もろこし畑の葉擦れ音     吉田 正義

風一閃もろこし畑の葉擦れ音     吉田 正義 『おかめはちもく』  蕭々たる秋の風がもろこし畑を吹き過ぎる。葉擦れの音がさやさや、ざわざわと波のように、遠くから近くへ、そして遠くへと渡って行く。北海道か、あるいは中国大陸か、広大な沃野が浮かんで来る。  雄大な感じがしてとても良いのだが、「一閃」という言葉に引っ掛かる。「閃」は門の中を人がさっと過ぎるのが見えるという会意文字で、瞬間的に何かが見える、ひらめく、きらめくといったことを意味する。稲妻の形容にも使われる。  言葉と文字には、それぞれ固有の意味合いがある。「アサ(朝)」と言えば夜が明けての一日の始まりを言い、「メシ(飯)」と言えば穀類特に米を炊いたもの、そこから敷衍して三度の食事を意味する。こういう風に言葉と文字は万人共通の表象であり記号になっている。従って、言葉と文字の持つ意味合いを自分勝手に変えてしまうのは慎まねばならない。  「風一閃」というなかなか魅力的な音韻に引きずられたことはよく分かるが、ここは「風立ちぬもろこし畑の葉擦れ音」くらいにしておいた方が余韻も生じる。    (水)

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