赤銅の警備員ゐて秋の風     植村 博明

赤銅の警備員ゐて秋の風     植村 博明 『合評会から』(日経俳句会) 弥生 赤銅色の警備員と秋の風との取り合わせがユニークです。 実千代 夏の日焼けが秋風の頃赤銅色になる。そんな情景がうまく出ています。 三代 日焼けした警備員が秋の風に吹かれている。季節の移るさまをうまく詠んでいる。 万歩 夏から秋への時の経過が巧みに表現されている。 佳子 会社のビルのお掃除のおじさんに、年中黒い人が居ます。秋風が吹く頃になると確かに目立ちます。着眼点が面白いです。 睦子 同じです。 ゆり 同じです。           *       *       *  皆さんの感想がほとんど同じ。こういうのも珍しい。さらに合評会では「六人の女性が採った。男の赤銅色に弱いのかねエ」という声が上がって会場は大笑い。とても面白い。秋風に立つガードマンという現代都市風景をすぱっと詠んだ。(水)

続きを読む

もろこしを二列二列と食べにけり     石黒 賢一

もろこしを二列二列と食べにけり     石黒 賢一 『この一句』  モロコシ(蜀黍)とは植物分類学上の名称としてはコーリャン、マイロ、ソルガムなど、穂状の実をつける黍(きび)を言う和名なのだが、トウモロコシ(玉蜀黍)を「もろこし」と呼ぶ地方やその住民がいる。この句もそうである。  焼玉蜀黍は郷愁を誘う食べ物だ。醤油の焦げた香りが食欲をそそり、かぶりついて実を噛みしめると、ほんのりした甘味と香ばしさが口中に広がる。縁日の夜店では綿飴、お好み焼き、烏賊の丸焼きと肩を並べる定番商品だ。食べ物がすっかり洋風化した今日でも相変わらず焼玉蜀黍の屋台が出ているところを見れば、大人にも子供にも根強い人気を保ち続けていることが分かる。  この句の面白さはもちろん「二列二列と食べにけり」にある。トウモロコシの食べ方には人それぞれの癖がある。一列ずつちょこちょこと横に食べていく人、くるくる回しながら威勢良く齧る人とさまざまだが、この人は器用に二列ずつ綺麗に食べて行くようだ。  とにかくトウモロコシの齧り方を句にするとは奇想天外で、思わず笑ってしまった。こういう句は楽しい。(水)

続きを読む

妄念は今もそのまま水澄めり     片野 涸魚

妄念は今もそのまま水澄めり     片野 涸魚 『この一句』  「人間齢を重ねると枯れてきて、欲も得も無い明鏡止水の心境になるものだ」とよく言われる。しかし、自分が八〇歳の坂を越えてみると、それが全くのデタラメだということがよく分かる。確かに身体は言う事をきかなくなる。ところがそれに反比例するように、年を取れば取るほど邪念妄念が渦巻き盛り上がって来るのだ。  一方では寄る年波、昔は簡単に出来ていたことがすっと出来なくなって癇癪を起こしたりする。物忘れがひどくなる。相手の言うことがはっきり聞き取れないと、「こいつはなんで物をはっきり言わないのだ。バカなやつだ」と決めつけたりする。そして、時々我に返って老耄の為せる不様を反省し、どうすべきかを考えたりする。  このブログ「みんなの俳句」の画面にはサントリーとか協和発酵とか、図々しい会社がうさんくさい「若返り薬」の宣伝を勝手に載せる。そんな胡散臭い会社さえ、さすがに八〇歳代は相手にしない。それでもなおかつ人間という生臭い生き物は妄念を抱き続ける。澄み切った秋水をのぞき込みながら。(水)

続きを読む

封印の郵便受けや曼珠沙華     大熊 万歩

封印の郵便受けや曼珠沙華     大熊 万歩 『合評会から』(日経俳句会) 実千代 封印の郵便受けというさびしい光景が「曼珠沙華」に合っている。 好夫 大家さんがアパートを出て行った人の郵便箱に、郵便物を入れないでくれと封印した。そこに曼珠沙華が咲いている。景が見えるようだ。 水馬 人は死ぬが曼珠沙華は枯れても翌年花開く。その対比が面白い。 而云 曼珠沙華はどんどん増える。今日も来るときに見たが、主人が亡くなった家の庭に曼珠沙華がいっぱい咲いていた。そんな景が見える。 反平 郵便受けに目を付けたのがいい。 青水 上五の「封印」が効果的だ。季語が効いている。 ヲブラダ この句を寂しい句と読むのが普通な気もするが、自然の美しさは人間の事情に関わらないとも読める。           *       *       *  曼珠沙華は日陰を好む植物と思われがちだが、日当たりの良い肥沃な土地だと二三年でこんなにもと言うほど増える。郊外住宅地に空き家の増える昨今、こうした情景が年々珍しくなくなっていく。(水)

続きを読む

身に入むや戦力外の小さき記事     玉田 春陽子

身に入むや戦力外の小さき記事     玉田 春陽子 『合評会から』(番町喜楽会) 水馬 戦力外ということは野球ですかね。人生を振り返って自分に置き換えているのでしょうか。その人を思いやっているのでしょうか。うまく表現していると思います。 而云 今時の新聞のニュースをよくとらえていると思います。「あなたは戦力外なんだ」といわれて・・・。身に入みますよね。でも、「イチロー」も「青木」も戦力外だったことがあるんだ。 可升 「戦力外の記事」を見つけたところがお手柄かと思います。元サラリーマンにも「身に入む」句です。           *       *       *  「身に入む」という季語をこのように用いて句に仕立てるとはと感心した。言われてみれば、ちょうどこの時期、日米ともにプロ野球シーズンは終盤、來シーズン目指して各チームとも選手の入れ換えを考え始める。野球ばかりではない、可升さんが言うように、世知辛い世の中、ごくフツーの会社人間だっておちおちしていられなくなってきた。(水)

続きを読む