晩学は牛歩がよろし鰯雲     岡本 崇

晩学は牛歩がよろし鰯雲     岡本 崇 『この一句』  よく言う「手練れの句」に属する、と私は思う。晩学とは何なのだろうか。作者の句歴や実力を考えれば俳句のことではなさそうだが、いや、やっぱり、と思わせるところもある。あらゆる勉学にゴールはない、と心得た上で「牛歩がよろし」と述べる態度に、円熟に達した時期のゆとりも感じられよう。  さてこの句、「上五・中七はよく分かるが、それと鰯雲の関係がよく分からない」と言う人が何人かいた。これはもちろん「取合せ」の句で、関係なさそうな二つの事物を並べて、新たな感興を呼び起こすという狙いを持つ。「晩学はゆっくりでいい、と思う。見上げる空に鰯雲」という訳である。  「鰯雲人に告ぐべきことならず(加藤楸邨)」。昭和の初期にこの句が発表された頃、プロの俳人にも「分からん」と述べた人が多かったという。近年は「取合せ」が退潮気味で、句会内にもこの手の句を理解できない人が出てきたようだ。その辺りを考えての一句か。作者は手練れ、と思う所以である。(恂)

続きを読む