逆さ霧太郎山に降る午前九時     高井 百子

逆さ霧太郎山に降る午前九時     高井 百子 『季のことば』  「逆さ霧」とは一体どのようなものだろう。さっぱり分からないが、山から霧が降って来るというのが面白い。霧というものは山間部に発生し、山肌を這い上って行くのが普通の景色だが、その逆というのは珍しい。  作者の句解を聞いて納得した。これは長野県上田市の北に屏風のように立つ太郎山(1164m)に発生する現象で、大昔から上田名物とされてきたのだという。上田市は北側を太郎山や虚空蔵山などが取り巻いている。ここに日本海からの湿った空気が風に乗ってやって来て突き当たり、押し上げられる。上空で急激に冷やされた湿った空気は凝結し雲霧となり、山頂から南斜面を滝のように降りそそぐ。これが「逆さ霧」なのだ。秋に多く、春にも見られるそうだが、いつ発生するか分からない。  大規模なものになるとナイヤガラの滝以上の迫力で神秘的だそうな。なるほどこういう環境で真田十勇士の霧隠才蔵が生まれたのだ。縁あって上田に住むようになった作者はせっせと地元の風土を詠んでいる。この句などまさに「天恵」であろう。(水)

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