石垣の目地に野芥子や夏の雲 谷口 命水
石垣の目地に野芥子や夏の雲 谷口 命水
『この一句』
芭蕉の生まれ育った伊賀上野で仰ぎ見た、築城名人藤堂高虎の築いた日本一と言われる大石垣を思い出した。惚れ惚れする曲線の石垣だが、長年手入れしていないせいであろう、目地(石と石の継ぎ目)には草や灌木が生え出していた。
野芥子(ノゲシ)はキク科の雑草。中空の茎を直立し、脇から枝を生やし、それぞれの先っぽに春から秋口にかけて黄色い菊のような花を次々に咲かせる。花が終わるとタンポポのような綿毛を出し、タネを風に乗せて方々に飛ばし、それこそ石垣のわずかな隙間にも生える。ぎざぎざの葉っぱがケシに似ており、茎を切るとケシと同じように乳汁を出すので野芥子という名前がついた。
石垣の途中に野芥子が一本突き出て花咲かせている。ぎらぎら照り返す乾ききった石垣にしがみついている。健気だなあと感心する一方、図太さに呆れかえる。石垣の曲線をたどりながら視線を上げていくと、真っ青な空に真っ白な夏雲。素晴らしい構図の取り方によって、広大な情景を描き出した。句作を始めて半年という、番町喜楽会デビュー早々の人の句とはとても思えない作品だ。(水)