葉桜の坂下りてゆく闇夜かな     今泉 而云

葉桜の坂下りてゆく闇夜かな     今泉 而云 『季のことば』  華やかな花見の時期を越すと、桜樹は一斉に葉を茂らせ始める。ゴールデンウイークを越した初夏の頃には、花のことなど一切忘れたように樹全体が緑に覆われる。これが「葉桜」で、生命力を感じさせる季語である。  旺盛に茂った葉桜は、外見は生き生きとして明るく、輝いている。しかし、その木蔭は暗い。満開の桜の花の下も薄暗く、死体が埋まっているのではないかと古人は言ったが、葉桜の下はそれ以上に秘密めいている。周囲が初夏の陽光に照らされているだけに、殊の外暗く感じる。まるでいきなり目隠しされたような気分になる。  そういった葉桜のトンネルを月の無い闇の中、下って行く。黃泉平坂(よもつひらさか)もかくや、これ以上の暗さは無いといった感じである。  この句は、闇夜の葉桜の坂を下って行くという、ただそれだけを述べたに過ぎない。せわしない句会ではこういう句は「それが何なのさ」と見過ごされてしまうのだろう、あまり点が入らなかった。しかし何度かゆっくり読んでいると、さりげない叙述に深い味わいがあることがしみじみと分かってくる。(水)

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