空写し琵琶湖周遊夏初め 吉田 正義
空写し琵琶湖周遊夏初め 吉田 正義
「おかめはちもく」
梅雨の始まる前、初夏の晴れ渡った日であった。琵琶湖周遊となると、出発点はかつての近江の国・志賀の都の大津港だろう。日本一の湖・琵琶湖がくびれて細くなった西南端のあたり。港のあちこちには大小さまざまな観光船が並んでいる。すでに「琵琶湖周航の歌」が流れていたに違いない。
ところでこの歌は何時生まれたのだろうか。調べて見て驚いた。何と一九一七年六月二十八日、今からちょうど百年前であった。旧制三高(現京都大学)のボート部員・小口太郎が琵琶湖周航中に詩を作り、「ひつじぐさ」(吉田千秋作曲)という曲に載せて、今津の宿で発表したのだという。
句の作者は「志賀の都よいざさらば」などと口ずさみながら、船に乗り込んで行く。デッキから眺めると湖面に青空が映っていた。しかし彼の視線はやがて空や広々とした周囲の風景に向いていったはずだ。「空写し」は「空広し」としたい。初夏の琵琶湖に乗り出していく時の心のときめきが感じられるのではないだろうか。
添削例 空広し琵琶湖周遊夏初め (恂)