葉桜に上野は元の上野かな     澤井 二堂

葉桜に上野は元の上野かな     澤井 二堂 『季のことば』  彼岸桜やソメイヨシノは別として、山桜や大島桜など大概の桜は花時から葉をはやす。ソメイヨシノとて花が散るのももどかしく葉を噴き出す。というわけで、東京近辺では晩春四月下旬には立派な葉桜になっているのだが、俳句で「葉桜」と言えば夏の句となる。これは五月に入って陽ざしが日に日に強くなり、それが若葉に照り返したり、葉の隙間を縫って地上に降りそそぐ陽光が印象的なことから、初夏の季語に定着したのである。  この句は「花の上野」の後日談。花見時の上野の山の騒々しさといったらない。昼も夜もキチガイザタである。花見に浮かれている人はいいが、展覧会に行こうとする人や、地元の人たちにとってはうんざりだ。それが葉桜になった途端、いつもの上野山に戻ったというのである。  「葉桜に全くひまな茶店かな 近藤いぬゐ」という句もあるように、飲食店などは雑踏が消えて困るのだろうが、ここを日常散歩コースにしている作者にとってはほっとする季節に違いない。上品な諧謔をたたえた佳句ではないか。(水)

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