鎌倉の小町小路に燕来る 井上 啓一
鎌倉の小町小路に燕来る 井上 啓一
『季のことば』
四季があって二十四節気があり、さらに七十二侯も・・・。中国から渡来したという気候の区分は実に細分化されている。その二十四節気の中の「清明」を三区分した最初が七十二候の「玄鳥至」(つばめ来たる)で、四月の五日頃になる。念のため「玄鳥」は黒い鳥、すなわち燕のこと。
句の作者は先ごろ鎌倉に出掛け、鎌倉駅前の小町通りを歩いていると、頭上を燕が通り過ぎて行ったという。もう五月だから、燕が飛んでいても不思議はないが、作者にとって「初燕」であり、「燕来る」なのである。「おっ、燕」と新鮮味を感じたのは東京に燕が少なくなっているせいだろう。
鎌倉の小町通りは八幡宮への本道・若宮大路の脇道だが、昨今は外国人など観光客でごった返すほどの状態。そういう混雑の中で燕を見つけたのも一興である。なお「玄鳥至」はもともと中国周代の「礼記」あった言葉。始皇帝時代以前の季節感が、現代の日本にまで延々と通じていた。(恂)