鍛ふべき男の子は生さず柏餅 高瀬 大虫
鍛ふべき男の子は生さず柏餅 高瀬 大虫
『季のことば』
柏餅はさまざまな思いや思い出につながる和菓子であるようだ。番町喜楽会(五月八日)から拾った例を挙げてみる。新聞紙で折った兜、鬼ごっこ、厨の母、コンビニに変わった和菓子店、缶蹴りの缶の行方、縁側のあった昔の家――。どの句にもちょっと立ち止まって考えたくなるものがあった。
掲句は長いスパーンを持つ思いを述べている。結婚し、子供は出来たが、男の子は遂に生(な)さなかった。女の子がいて幸せだが、男の子を厳しく指導し、勉強を教え、我慢強さを身につけさせたい、と描いていた夢は実現出来なかった。柏餅を食べながら「これも我が人生か」と思うのだろう。
三月の雛祭が終わり、四月も半ばを過ぎる頃、街の和菓子店に柏餅が並ぶようになる。「あれを買おう」という目的がなくても、何気なく買ってしまうのが柏餅の特徴でもあるという。桜餅の葉とは違う、ごわごわした無骨な柏の葉。あの葉の内側にはやはり、男の思いが宿っているらしい。(恂)