春深し草むしりして一日かな     堤 てる夫

春深し草むしりして一日かな     堤 てる夫  『おかめはちもく』  句会でこの句を選んだ。もちろん、いい句だ、と評価したからである。ただ読んだ後、ほんの少しひっかかるものがあった。どこか調子がしっくりこないのだ。「春深し」で切れる。そして「一日かな」でまた切れる。俳句で好ましくない形とされる「~や~かな」と同じことになっているからだろう。  「春深し」が兼題だから、「春深し」の句が五十句以上も出て来た。その中で掲句と同様の感じを受けた句がかなりあった。「春深し面影橋の下宿かな」「春深し年々月日速くなり」「春深し扉の奥の秘仏かな」――。芭蕉の言葉「句、調(ととの)はずんば、舌頭に千転せよ」が自ずと浮かんでくる。  「春深し」に替え、「春更けて」「春闌(た)けて」などの傍題を選んだ句もあった。それによって、「春深し」~「かな」の調子を避けたのだろう。この他にももちろん、読み手の心の「ひっかかり」を避ける方法がある。一つは言葉の順を変えてみることである。これがベストではないはずだが、一例として――。  添削例 草むしりして春深き一日かな  (恂)

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