春の城盛衰語る古陶片 中村 哲
春の城盛衰語る古陶片 中村 哲
『この一句』
戦国時代、関東一円を手中に収めた後北条氏は進んだ領国経営を行った。農民からは搾れるだけ搾るというのが普通だった時代に、領主の取り分(租税)四割、領民六割という「四公六民」制度を据え、民力を養った。正確な検地を行い、殖産振興を図り、長子相続制を敷いて農家や武家の相続争いを防ぎ、貨幣経済を行き渡らせるといった斬新な政を行った。これ等は秀吉や家康が見習っている。
小田原に本拠を置き関東一円に武威を張った北条氏は不思議なことに「天下取り」には乗り出さない。逆に成り上がり者の秀吉が天下統一の大号令を掛け、ついにはこれに攻め滅ぼされてしまったのであった。
秀吉の後、最終的に日本国を治めた家康は、北条の遺風を徹底的に潰す方針で、この句の詠まれた八王子城も跡形無く壊された。「しかし、あの城址には意外に生活感が残っていた」(而云)というように、栄華を偲ばせるものがいくつも出てきた。ベネチアングラスのレース花瓶や明の陶磁器などがそれである。いずれも破片ばかりだが、丁寧に接合され、名品のよすがを伝えている。「盛衰語る古陶片」とはよく詠んだなと感じ入る。八王子吟行句会第二席の句。(水)