春耕の一鍬ごとに土生まる 徳永 正裕
春耕の一鍬ごとに土生まる 徳永 正裕
『この一句』
四月十五日に行われたNPO法人双牛舎総会・俳句大会で見事「天」賞に輝いた作品である。「『土生まる』の表現が素晴らしい。冬の間、乾燥して白く固まっていた畑の土が、春先に耕され、黒々とした土が現れる。それを『生まれる』と見た作者の感受性の豊かさと、春の喜びが伝わってくる」(中村哲)という選評にすべてが言い尽くされている。
作者は千葉県佐倉市の住人。東京のベッドタウンとして市中心部は住宅密集地になっているが、ちょっとはずれるとまだまだ畑や田圃や林が残っている。素晴らしい歴史博物館のある佐倉城もある。散歩コースには事欠かない。その折の写生であろう。
春耕の真っ盛りは二月、三月。まだまだ寒い。鍬が打ち込まれ、掘り起こされると、真っ黒な土が顔を見せる。冷たい外気に触れた黒土が真っ白な湯気を立てている。まさに新たな命を吹き込まれたように見え、感動を覚える。この句によってみんなの心の中にしまわれていた原風景が甦ったせいせあろう、会場は盛大な拍手に包まれた。(水)