やわらかにひかり湛えし春の雲 深瀬 久敬
やわらかにひかり湛えし春の雲 深瀬 久敬
『この一句』
春の雲の持つ様子や雰囲気を見たまま感じたままに詠んだ句である。私は、いいなぁ、と思ったが、句会でこの句を選んだのは私だけだった。人によって評価や好き嫌いが分かれる句なのかも知れない。派手なところがないだけに、選句の最後に落されてしまうタイプかな、とも思う。
ところで「湛(たた)える」の意は? 辞書には「器いっぱいに液体を入れて、あふれんばかりにする状態」などとある。よく「笑みを湛えて」などと用いるが、これは「満面の笑み」より一段上の「あふれんばかりの笑み」なのだ。やわらかな光が満ち溢れてくるような春の雲なのだ。
まばゆいばかりの雲が、ゆっくりと動いて行くのだろう。ここで気付いた。「やわらかに」と仮名書きにしたのは、句にさらなる柔らかさを求めたからに違いない。ならば、もう一歩進め、「やはらかに」と旧仮名遣いにしたらどうだろう。ふわふわ感がまた少し増すのではないだろうか。(恂)