傘ささぬ人も過ぎゆく春の雨 星川 佳子
傘ささぬ人も過ぎゆく春の雨 星川 佳子
『季のことば』
芭蕉の高弟で、故郷伊賀上野の蕉門のまとめ役だった蓑虫庵主服部土芳は、俳論集『三冊子』の中で、「春雨は小止みなく、いつまでも降り続くやうにする、三月をいふ。二月末よりも用ふる也。正月、二月初めを春の雨と也」と述べている。つまり、「春雨」は現在の暦で言えば三月末から四月の、しとしとと小止み無く降り続く雨を言い、二月から三月のやや強い雨は「春の雨」とすべきだと言うのである。
この句は傘をささない人も居るくらいの雨だから、土芳に従えば「春雨」であろう。しかし、芭蕉時代も今も、「春雨」と「春の雨」とは同じ意味合いで用いられることが多く、強いて違いを言えば、「春の雨」の方が初春から晩春まで通して詠まれ、かなり強い雨も言うことがあるといった程度である。
大きな一枚ガラスの喫茶店かレストランの窓際の席にゆったりとくつろいでいるのだろう。外は絹糸のような雨がしっとりと降っている。春らしい色合いの薄手のコートに身を包んで颯爽と歩む若い女性、粋な帽子の紳士。傘を差す人も差さない人も・・、春雨の都会の洒落た雰囲気が伝わって来る。(水)