バスは来ぬ手にあられ雪跳ね返る     大平 睦子

バスは来ぬ手にあられ雪跳ね返る     大平 睦子 『季のことば』  なんともまあ寒そうな感じが漂って来る。こうなると手に息を吹きかけたくらいではなんともならない。「あられ雪」は気象用語では「雪あられ」と言うらしいが、雪の結晶に水蒸気がくっついて凍り、アラレ状になったものを言う。降って来る様子は雪と同じだが、ビニール合羽やバス停の屋根に当たるとパラパラと音を立てる。  バスは一向にやって来ない。家を出るときにちゃんとバス時刻表を見て、少し余裕をもって出て来たのだから間違えたはずはない。きっとどこかに大きな雪の吹き溜まりでもあって立ち往生しているのか、雪に不慣れな都会からの車がスリップして動けなくなり、道をふさいでいるのか。  全くうんざりする場面なのだが、この句にはあまり暗さが感じられず、アッケラカンとしている。「手にあられ雪跳ね返る」と状況をすんなり詠んでいるせいだろう。つまり、作者は北国の人で、こうした事にすっかり慣れているのだろう。そう思っていたら、果たして南魚沼出身の睦子さんの句であった。こうやって、自然の情景を自然に詠むのが一番力強く、実感を伝える。(水)

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