媼らの昔語りや雛の家 中嶋 阿猿
媼らの昔語りや雛の家 中嶋 阿猿
『この一句』
媼(おうな)は何故、あんなに集まったのだろうか。半世紀以上も前、我が家には母の姉や義姉らが毎日のように来て、おしゃべりを展開していた。集まるのは子や孫が学校に行っている午後。彼女らは年とともに元気になっていく。雛祭は一層賑やかで、「雛祭は婆の日だ」と思ったものである。
この句を句会の何日か後に見直して、また考えた。現在はどうなのだろう。雛祭に例え年配の女性が集まるにしても、立場は昔とは明らかに違っている。私の知る限り、かつてのおしゃべり媼たちは専業主婦か、その卒業生であった。現在なら社会に出て活躍しそうな人も少なくなかった。
彼女らは四十歳を過ぎても、近所の人から「○○さんのお嫁さん」と呼ばれていた。あくまでも婚家に所属し、年を取ると一家を取り仕切る人でもあった。雛祭はそういう女性たちのハレの日だったのだろう。さてこれからの女性と雛祭の関係は? 俳句はいろんなことを考えさせてくれる。(恂)