朝市の青菜の中の花菜かな 大熊 万歩
朝市の青菜の中の花菜かな 大熊 万歩
『季のことば』
「花菜」とは「菜の花」、つまりアブラナの花である。昔は食用油および上等の灯油原料として全国至る所に栽培されていた。「菜の花や月は東に日は西に 蕪村」という菜の花畑の句は子どもでも知っている。
掲載句は、一読鮮やかな色彩が目に飛び込んで来る。新鮮な緑の野菜が積まれた中に、輝くような黄色の花を二つ三つ咲かせたのを束ねたのが見える。これは油採取用ではなく、「菜花(なばな)」と呼ばれる食用菜である。さっと茹でてお浸しにしたり、辛子和えにすると、まさに春を食べているような気分になる。
というわけで今日では「菜花」が普通になり、わざわざ「花菜」と言うと、観賞用の「菜の花」や「紫花菜」などを思い浮かべたりする人がいる。作者は「菜花」では口調が良くないと、あえて「花菜」にしたのだろう。まあ、京都あたりでは菜花をあっさり塩漬けにしたのを「花菜漬」と言って、春の京漬物の目玉商品にしている。朝市で野菜として売っているのを「花菜」と称しても悪い事はあるまい。早春の朝市の清清しい感じが伝わって来る。(水)