乗り手待つボートの群れや春浅し 中村 哲
乗り手待つボートの群れや春浅し 中村 哲
『合評会から』(日経俳句会)
実千代 春三月ともなればボートを出すのだけれど、それを待つ早春の池畔の風景がよく描かれています。
二堂 私が毎日散歩する池にもボート乗り場がある。乗り手を待ってボートが今かいまかという顔をしている。「春浅し」と連動している。
正 乗り手が一人もいない早春の景色を「ボートの群れ」と表現したところが面白い。
綾子 水はキラキラしているが、まだ寒い時期の景が浮かんできます。
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千鳥ヶ淵や弁慶堀など、三月下旬の花見シーズンともなればボート乗り場には長い列が出来る。春浅き今はそんな賑わいがうそのような寂しさだ。中には修理のために岸辺に引っ繰り返されているのもある。しかし、あたりの空気には徐々に春の近づきを感じる。「乗り手待つボートの群れ」とは、なるほど早春の感じを言うのにふさわしい役者を見つけたものだなと思う。(水)