琴の音にゆるやかなりや梅の花 後藤 尚弘
琴の音にゆるやかなりや梅の花 後藤 尚弘
『おかめはちもく』
私の所属するいくつかの句会では最近、会員数が増加傾向にある。大いに結構なことだが、一句会で百何十という数の句を吟味するのはなかなか大変なことで、どうしても一句ごとの読み方が粗っぽくなる。さっと目を通しただけで、これはいい、これはダメ、と判断しがちなのだ。
この句の場合は「琴の音」「ゆるやか」「梅の花」の三語を頭の中に並べただけで、美しいイメージを描いてしまった。落ち着いた和風の庭にゆるやかな琴の音が流れてくる、庭では梅の花がちらほらと咲き始めた、というような情景である。しかし後に読み直して、どうも違うな、と気付いた。
「ゆるやか」なのは琴の音なのか、梅の花なのか。最初に目を通した時は「琴の音がゆるやか」だと即断したが、句全体をよく見れば「梅の花がゆるやかに咲き始めた」ようでもある。作者の意図ははっきり捉えられない。やむを得ず、最初のイメージを重視しつつ、手直しをさせて頂いた。
添削例 琴の音のゆるやかにして梅の花 (恂)