春立つや浅間の裾の浅緑     井上 啓一

春立つや浅間の裾の浅緑     井上 啓一 『季のことば』  この時期、例えばケヤキとかイチョウなどの梢を見上げると、何となく色が変わってきた、と思うことがある。見掛けは枯木(落葉した樹木)なのだが、幹や枝の内側に潜むパワーが、春へ向かって動き始めているのだろう。芽吹きは少し先だが、準備を始めた、というところかも知れない。  そのあたりのことを参考書類で調べていたら、万葉集の例が出ていた。「浅緑染めかけたりと見るまでに――」。この短歌は柳の芽が萌え出る直前の枝の色などを詠んでいるのだという。その昔、寒い冬を耐え、ようやく春めいてきた頃の万葉人の嬉しさは、現代人にもよく理解出来るところである。  句の作者は浅間山の裾を見渡して、おや、茶色が何となく緑っぽく変わって来たぞ、と気付いたのだ。そのような地にセカンドハウスを持つ人ならではの喜びだと思う。辞書によれば「浅緑」とは、うすい緑色、うすい萌黄色、空色。私もしばらく近くの道路の並木を見つめることにしよう。(恂)

続きを読む