如雨露からそっと取り出す薄氷 井上庄一郎
如雨露からそっと取り出す薄氷 井上庄一郎
『この一句』
朝、庭に出て「花壇に水を」と如雨露を取り上げたら、中に氷を見つけた。如雨露の中に一杯、しっかりと凍っているのではなく、薄氷が浮いいたのだ。寒い日が続いてはいるが、東京近辺では今年初めて張った氷だった。作者は薄氷をそっと取り出し、朝日に透かして見たのではないだろうか。
一月の半ば、東京・日比谷公園の池に立つ「鶴の噴水」に氷柱(つらら)が下がった日の作ではないだろうか。私はその翌日、日比谷に行ったついでに見に行ったら、氷柱はすっかり溶けていた。女性の二人連れも見に来ていたが、「やっぱり、東京だからね」と言いながら、帰って行った。
かつて東京はもっと寒かった。毎日、氷が張り、軒から氷柱の下がる日もあった。今は「寒い、寒い」と言いながら、そんな昔を懐かしんだりする。この句には「おお、張ったのか」と、薄氷に声を掛けた雰囲気がある。珍しく張った氷を労わるような心? それも悪くない、と思った。(恂)