身の上は知らぬいつもの雪女    廣田 可升

身の上は知らぬいつもの雪女    廣田 可升 『この一句』  「雪女(雪女郎)」は実に傑作な季語だと私は思っている。日本の昔話にしばしば登場し、雪の精とか幽霊だとか言われるが、絵空事だけでなく現実にも存在しそうな女性で、歳時記の中では「気象・天文」に分類されているのも可笑しい。つまり季語「雪女」はどう詠んでも許される面白い題材なのだ。  この句の女性はうら淋しい酒場に夜な夜な現れてくるらしい。常連の男たちはカウンターの隅に座る女性についてあれこれ詮索しているが、正体は依然として不明のままだ。特に雪の日に表れるので、男たちは「お雪さん、また来たぜ」などとひそひそ話をしている。果たして彼女は雪女か、人間なのか。  作者は実はこの続きも詠んでいた。同じ句会に出されたその句は「淋しけりや一杯やらんか雪女郎」。一人の男が女性に声を掛けてみたのだ。故・真鍋呉夫さんの句集「雪女」に登場する雪女のような切実感はないが、二句から浮かぶ遊び心を作者とともに楽しみたい。これまた俳句、ではないだろうか。(恂)

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