冬日差す有刺鉄線黒々と     中嶋 阿猿

冬日差す有刺鉄線黒々と     中嶋 阿猿 『おかめはちもく』  「有刺鉄線黒々と」とあるから、何か曰くがありそうだとは察しがつくのだが、具体的には分からない。まずは沖縄や横田、厚木などの米軍基地を思い浮かべる人が多いだろう。  どこと特定できないまでも、この句の提示する情景だけで、読者はあれこれと思いを巡らすことが出来るから、それで可ということもあろう。しかし、なんとも物足りない、歯がゆい思いが残る。それが咎めになって、句会では点が入らなかった。捨てがたい思いから作者に聞いてみると、ポーランド旅行で行ったアウシュヴィッツでの写生句とのことであった。  ナチスドイツがユダヤ人、ジプシー、政治犯、精神障害者、同性愛者を強制収容したおぞましい「負の世界遺産」。収容者を「労働者」「人体実験用」「無価値」と仕分けし、「無価値」と判定された女子供老人は即刻ガス室へ、「労働者」も酷使された後は抹殺。かくて150万人が殺された。  それを詠むならば、やはり堂々と固有名詞を詠み込んだ方がいいのではないか。  (添削例) 冬日差すアウシュヴィッツの鉄条網 (水)

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