冬めくや物音のせぬ別荘地     井上 啓一

冬めくや物音のせぬ別荘地     井上 啓一 『この一句』  夏休みシーズンはもちろんのこと、秋が深まってもあれほど賑わい、人々の歓声、歌声、楽器の音、自動車の音、その他もろもろの音が四六時中聞こえていた別荘地。それが11月の声を聞くとぱたりと止む。  山間の別荘地であれば木の葉がひっきりになしに舞い、遠山の頂きは雪をかぶり、あたりは深閑とする。これからは森の動物たちの天国になる。海辺であれば、低く垂れ込めた雲の下、海上遠くにヨットの白帆が見えるほかは、ただ打ち寄せる波の音ばかりという情景になる。  俳句は四囲の状況や物事を視覚を通して描写したものが圧倒的である。このように聴覚を通しての感慨を句に仕立てたものが時に出て来ると、新鮮な印象を抱く。「物音のせぬ」という措辞が少々散文的な気もするが、それが却って、長年慣れ親しんだ自分の別荘のある土地でふと季節の変化を感じ取り、日記でも書くようにそのまま述べた様子が見えて、しみじみとした情感が伝わってくる。(水)

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