踊り出すからくり時計秋暑し     徳永 正裕

踊り出すからくり時計秋暑し     徳永 正裕 『この一句』  ヨーロッパの古都のからくり時計は時代をくぐり抜け、なんとも言えぬ風情がある。プラハの旧市街広場のからくり時計は実に凝っている。時計の文字盤の背景には太陽と月の運行が表示され、時計の横の死神(骸骨)が定時に鐘の綱を引くと、チンチンチンという音と共に上部の二つの窓からキリストの十二使徒が次々に顔を現す。ミュンヘン・マリエン広場の市庁舎時計の騎士の決闘も実に面白い。スイス・ベルンのは小さいけれど市の紋章でもある熊なんかが現れてなかなか味がある。  日本では八〇年代から九〇年代の高度成長からバブル経済時代、大都市中都市問わず、盛り場にからくり時計をつけるのが流行った。しかし、道後温泉の「坊ちゃん時計」など地方にいくつか出色のものがある他は、首を傾げるものばかりで、ディズニー人形の出来損ないのようなのがくるくる回っている。  この句はそんな現代の暑苦しいカラクリ時計に託して、何から何までちぐはぐな今の世の中を諷しているようだ。巧みな諷喩である。(水)

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