素麺といへど二口三口噛む     山口 斗詩子

素麺といへど二口三口噛む     山口 斗詩子 『この一句』  「蕎麦や素麺はな、そんな風にくちゃくちゃ噛むもんじゃねえ、すすり込むんだ」。若い頃、威勢のいい先輩によくどやされた。何しろこちらがまだ蒸篭の半分もいかないうちに、このひとはさっさと平らげて蕎麦湯を啜り、立ち上がろうとするのだ。  私もどちらかと言えば何事もすいすいと運びたがる方なのだが、ものを食べるのだけはゆっくりと味わい、楽しみたい。蕎麦だって、粋な江戸っ子にはバカにされるが、つゆをちゃんとつけて、口中にしばらく含んで、味と香りを十分楽しむという食べ方である。  この句を見て、へー同じような人が居るもんだなあと感じ入った。  素麺といえば蕎麦よりもっと頼りない食べ物である。全く噛まずにつるつる呑み込んでも問題無いだろう。さはさりながら、そこが人情である。口中に入れたものを味わいもせず呑み込むことに抵抗を覚えるのだ。勿体ないとかなんとかいうのではない。かたちだけでも噛まずには吞み下せないのだ。物の食べ方の機微をよくも詠んだものよと思う。(水)

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