門火消し一人暮らしの家に入る     田中 白山

門火消し一人暮らしの家に入る     田中 白山 『季のことば』  旧暦七月十三日から十五日が盂蘭盆。現今の東京近辺ではそのまま七月に行うが、地方では季節を合わせ八月にずらして行う事が多い。従って「盆」や「門火(かどび)」「茄子の牛(馬)」は俳諧時代と変わらず、秋の季語になっている。祖先の霊を迎えるために、十三日の夕暮れ時、門前に麻幹(おがら)や割箸の脚を付けた茄子胡瓜の牛馬を揃え、オガラを焚くのが「迎え火」。十五日夕に再び焚くのが「送り火」で、両方をまとめて「門火」と言う。  娘は嫁ぎ息子も一家を構えて、いまやつつましく一人暮らしの老婦人。門口でひっそりと迎え火を焚き合掌、「あなたお帰りなさい」とつぶやいて、オガラの燃えかすを丁寧に消し、静かに家に入る。仏壇には故人の好物だった枝豆や雲丹と吟醸酒が供えられている。そのお裾分けでしみじみと一献。  そんな景色を頭に浮かべながら、ああいい句だなと思っていたら、作者が分かってア然。なんと作者は男で、奥方は矍鑠とされている。完全なるフィクション。  まあ、蕪村だって「身にしむや亡妻の櫛を閨に踏む」と詠んだ時には、奥さんはぴんぴんしていたとの説もある。(水)

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