目に見えぬ傷の疼きや花芒     水口 弥生

目に見えぬ傷の疼きや花芒     水口 弥生 『この一句』  ススキの葉は切れ味のいい刃物と同じ造りになっているという。葉の周囲の組織は非常に硬く、薄く、顕微鏡で見ればギザギザになっているのだ。うっかり葉を握り、引っ張ったりすると、指がスパッと切れてしまう。おや、と思って指先を見たら、細長い傷跡から、赤い血がぷつぷつと湧いて来たりして。  この句、下五を「花芒」とし、柔らかな、優しいムードで締めくくっているが、別の本意が潜んでいるに違いない。「目に見えぬ傷の疼き」は、言葉を変えれば「心の傷の疼き」なのだろう。子供の頃か若い頃の甘酸っぱい体験が底辺にあるはずで、それこそがこの句のテーマ、と解釈することにした。  歌曲「野ばら」(ゲーテ作詞)の一節が浮かぶ。野ばらは、折ろうとする少年にこう告げるのだ。「手折らば手折れ 思い出ぐさに 君を刺さん」(近藤朔風訳)。折るなら折りなさい、私は思い出のために、あなたを棘で刺しますよ・・・。何十年も前、そんなことがあったなぁ、と回顧する人もいそうである。(恂)

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