ひと気なき浜に崩るる土用波     中村 哲

ひと気なき浜に崩るる土用波     中村  哲 『季のことば』  「土用波」は夏の土用の頃に、主に太平洋岸に押し寄せる大波、高波を言う。これは南方海上に発生する台風による波のうねりである。  南方海上に熱帯低気圧が生まれ、それが台風に育っても日本列島はまだ平穏で、夏の海は穏やかである。そこへ突然高波が押し寄せて、水遊びしていた子どもを引き攫っていったりする。それで、親は子どもたちに「土用波が来るからね、膝のところまでしか入っちゃいけませんよ」と言い聞かせる。それはとにかく、この頃になるとクラゲが湧いて来たりして、海水浴もあまり楽しくなくなる。海の家も十分稼いだ所から順に閉じて行く。  というわけで、八月も半ばを過ぎるとあれほどの賑わいを見せていた浜がすっかり静かになる。吹く風も心なしか秋の気配で、寂れた感じが漂う。  この句は頭からすっと詠み下したいわゆる「一本俳句」で、無理にひねりを効かせたり、関係無い二物を取り合わせて「どうだい分かるかい」と鼻うごめかすような嫌味がない。何でもない平明な詠み方で、この時期の浜の雰囲気を実にうまく伝えている。(水)

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