木道の下駄の音する蛍かな     広上 正市

木道の下駄の音する蛍かな     広上 正市 『この一句』  木道と聞けばまず尾瀬、箱根、奥日光や北海道各地の湿原地帯などを思うが、この句の場所はちょっと違う。名所や温泉地など、大勢の人が訪れる場所に違いない。理由はもちろん下駄の音である。その宵、宿屋近くの蛍の出てくるという湿地に待っていたら、木道を踏む下駄の音が近づいてきた。  蛍火が一つ、ゆらゆらと飛んできた時だ。「蛍が逃げちゃうじゃないか」と思ったが、自分も宿屋の下駄を履いているのだから文句を言える立場ではない。気づけば木道のあちこちからカタカタと下駄の音がする。やがて蛍火が十、二十と増えて、数え切れないほど。見物の人々の歓声も聞こえてきた。  俳句に不慣れな方は「下駄の音する蛍かな」に違和感を覚えたかも知れない。しかし俳句には「俳句文法」のようなものがあり、「下駄の音がし、蛍の火が現れた」と解する。「草に置いて提灯ともす蛙かな」(虚子)。この句を「(漫画の)カエル君が提灯に火を点している」と解した人もいたが・・・(恂)

続きを読む