犬吠ゆといふ名の岬夏の雲 大石 柏人
犬吠ゆといふ名の岬夏の雲 大石 柏人
『この一句』
弱者にそそぐ同情の念を判官贔屓(ほうがんびいき)と言うが、この判官は検非違使(京の治安を司った役所)の幹部のことで、源義経がこれに任命されたことから、後世、判官といえば九郎判官義経の代名詞になった。義経ほど死んでから人気が高まった武将もいない。平家追討にあれほどの功績を挙げながら、兄頼朝に追われ討たれてしまった。しかし民衆は義経の死んだのを信じようとせず、平泉からさらに北上して北海道に渡り、中国大陸に渡海、ついにはジンギスカンになったというのである。
追われ追われた義経主従の逃走ルートとされる道が全国各地にある。本州最東端犬吠埼もその一つ。ここから船で東北に逃れたという。その時、置き去りにされた義経の愛犬若丸が悲しんで七日七晩吠え続けてついに岩と化した。故にこの岬を犬吠埼と言うと案内看板にある。
義経伝説をさらりと紹介しただけの句だが、ここに立って太平洋を眺めていると「そんな話が生まれる雰囲気もあるな」と思う。雄大な、時にはのしかかって来るような「夏の雲」が上五中七とよく響き合っている。(水)