点滴の清き光や夏至の夜 大熊 万歩
点滴の清き光や夏至の夜 大熊 万歩
『この一句』
「点滴」には単なる「しずく」の意味もあるが、これはやはり入院中の状況だろう。作者かご家族としよう。ともかく誰かがベッドの上で点滴を受けている。その点滴の一滴、一滴を見つめているのはベッドに横たわる患者自身か、付き添いの人かも知れない。時刻は夜、それも夏至の夜であった。
句の中心は「清き光」である。この点滴は単なる薬材の液体ではない。人の生死にかかわる、いわば「命の水滴」である。何秒かの間を置いて、ぽつり、ぽつりと落ちる水滴を見つめているのは、患者でも付き添いでもいい。それを見つめる心はどちらも同じで、病状快癒への思いもまた同じである。
「そう言えば、今日は夏至だった」と気づく。夏至と病状とは何の関係もないはずだが、昼間が一番長く、太陽が最も高く上る一年に一度の日なのだ。何か自然の摂理のようなものが病状にも、点滴にも宿っているような気がする。一日が過ぎようとしている。清き一滴がきらりと光って落ちる。(恂)