薄掛けの目覚め心地や今朝の夏 高瀬 大虫
薄掛けの目覚め心地や今朝の夏 高瀬 大虫
『季のことば』
「今朝の夏」とは立夏のこと。一夜明けたら夏になったという、季節の切り替わりの感じを強めた言い方であり、「さあ夏が来たぞ」という気分である。漢語の立夏を和風に言い換えた「夏立つ」も同じような意味合いだ。
ところで冒頭の「薄掛け」というのは「夏掛け」(夏布団)の事であろう。この言葉は辞書には無いが、句を読めば夏掛けのことだとすぐ分かり、昔からある言葉のように思ってしまうのが面白い。恐らく作者は「今朝の夏」というはっきりとした季語を置いて、さらに「夏掛け」としたのでは句にならないと、苦心の末の造語なのであろう。これで読者の胸にすっと落ちる形になった。
昔は旧暦四月一日が更衣で綿入れの着物を袷に替えた。蒲団も分厚いものから薄いものになる。新暦となって月遅れの五月一日に律儀に更衣をする家もある。この句の作者はこうした昔気質か、かなりの暑がりなのであろう。さっさと夏掛けに変えた。でも、やっぱり少し早すぎたか。夜明け方、涼しすぎて目覚めた。「薄掛けの目覚め心地」は実に清清しいのだが、誰も見てない家の中で伊達の薄着をしたような感じでもある。(水)