柿若葉陽に透く影の柔らかさ     直井 正

柿若葉陽に透く影の柔らかさ     直井 正 『この一句』  柿若葉の下に立った時の実感をそのまま正確に描写している。真夏の柿の葉は分厚く、てらてら光って、ふてぶてしい感じがするが、初夏の柿若葉は薄く柔らかく、まるで赤ん坊の皮膚のようである。  陽の光を三〇%くらいは通すのではなかろうか、葉を透かした柔らかな陽差しが木蔭に佇む人に降りそそぐ。身も心も洗われるような、清清しい気分になる。若葉の切れ目からは晴れ上がった空が見える。こういう時、なんとも言えない「ありがたい」気分になるものだ。  この句の「陽に透く影」の「影」は、人影とか物の影といった暗い部分を言うのではなく、光そのものである。月光のことを「月影(つきかげ)」と言うように、この句の「影」も柿若葉を透かして射し込む光なのである。  4月末に行われた双牛舎俳句大会での上位入賞句。奇を衒うことなく、悠然と王道を行くが如き作風が、多くの人の心を捉えた。(水)

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