五歳児の将棋せがむや春の昼 堤 てる夫
五歳児の将棋せがむや春の昼 堤 てる夫
『季のことば』
「春昼」。暖かくて、のどかで、ぼおっとしてしまう晩春の昼下がりを言う季語である。他の季節の昼には無い、気持の良い物憂さがつきまとっている。
娘に子どものお守りをたのまれたのだろう、相手をしている。近ごろの五歳児は実に大人びていて、スマホの操作などお茶の子さいさい。理解力はなかなかのものだ。物は試しと将棋を教えてやったらすっかりはまってしまったようだ。
とは言ってもそこはまだ幼稚園児。近ごろカミサンにボケたわねえとしきりに言われるようになった身ではあるが、まだまだ飛車角桂香落ちだって幼児に負けるはずはない。しかし、本気になって簡単に詰ましてしまうとベソを掻くから、その手加減が難しい。これでもかとばかりに隙を作って勝たせてやると、嬉しがるのなんの、「もう一回、もう一回」と切りが無い。
逃げ出したオジイチャン、縁側に座ってのんびりぼんやりしていると、五分とたたないうちに、「ねえ、将棋しようよー」とまとわりついて来る。(水)