行く鴨の名残を惜しむ水辺かな     久保田 操

行く鴨の名残を惜しむ水辺かな     久保田 操 『季のことば』(六義園吟行)  「行く鴨」「引鴨」は、三月初めから五月初めにかけて、繁殖地であるシベリアや中国東北部に飛び立って行くのを言う季語である。秋に飛来し、冬の間、過ごしやすい日本で餌をたくさん食べて体力を付ける。そうしながら伴侶を見つけ、翼たずさえ北国へ帰り雛を生み育て、長距離飛行の出来るようになった子どもたちと共に翌年秋にまた日本にやって来るのだ。  鴨の種類によって早く帰るのと、いつまでも日本に居残るのとがいる。三月末の六義園の池にはマガモの姿は見えなかった。もう飛び立った後だったのだろう。その代わり、黒白ぶちで金色の眼が光る、小さいが派手な姿のキンクロハジロという鴨がたくさんいた。  この小鴨は繁殖力旺盛な種類らしく、今や日本の至る所の湖や池や川に来るようになった。美しい姿とちょこまかした動きで愛くるしい感じだが、実はしたたかで、見物客が池の鯉に投げる麩を素早く横取りする。  六義園の池でも盛んに愛敬を振りまいて、いかにも去り難い様子であった。その様子を素直に受け止めて詠んでいる。(水)

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